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家庭に入った女は、だらしなくなり、素敵ではなくなる。彼女は悲壮な顔でそう言い切ったものだ。
彼女は新居となるマンションの一室に、トレーニング・ルームをつくった。そこには最新鋭のトレーニング・マシーンが並んでいて、まるでスポーツ・クラブのジムが引っ越してきたような状態だった。
「ちょっとやりすぎなのじゃないの」と驚く私に、彼女は言った。
「どうしてよ。『体に賛肉がつくのと、心に賛肉がつくのは比例するような気がする』って言ったの、あなたじゃない。私、なるほどその通りだと思って、ジムをつくったのだよ」
私は思わず絶句した。
確かに以前そんなことを言った覚えがある。ところが、言い出しっぺたる私のほうはジムどころか、最近ではポストへ葉書きを出しに行くのにも車に乗るという有様だ。
当然、賛肉はつき放題。心の賛肉だって、相当のものだろう。
私とは違い、結婚後もSさんの努力は続いた。エクササイズを欠かさないのはもちろんのこと、お休みの過ごし方も工夫している。
私のように、「家でゴロゴロしてよう。いちばん経済的」なんてことは、口が裂けても言わない。
「日本人の夫婦は、二人でバカンスを過ごさないから、ただのおじさんとおばさんになってしまう」というのが、彼女の持論だった。
「フランス人を見てみなさいよ。どんなに忙しくても、夫婦一緒にお休みを過ごすでしょ。そのために働いているようなものだっていうじゃないの。私たちもそうするわ」
彼女の言葉に嘘はなく、お休みになると、夫婦で海外にダイビングに出かけ、夜はロマンティックな海辺のパーで過ごしていた。もちろん、服装にも気を配る。
ところが、不思議なもので、彼女は結婚してから素敵になったとは思えなかった。確かに、体はシェイプアップされていたし、服装も最新流行なのだが、だんだん人相が悪くなっていくようなのだ。
なんだかいつもふっくらした面で、どうしたのだろうと気になっていたのだが、本人が話さないのに、プライベートについて質問するわけにもいかず、私は黙っていた。ところが、ある日、Sさんが「もう限界。あんな男とはもうやっていけない」と、泣きながら電話をかけてきた。
どうしたのかと思ったら、結婚してすぐの頃は、少しは家事を手伝ってくれていた夫が、しだいに何もしなくなり、最近では、おかずに文句を言ってばかりいるのだそうだ。
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